君を愛す ただ君を……

あたしは女子更衣室で着替えると、教室に戻った

自分の鞄を掴むと、下駄箱に向かった

嫌だ

大ちゃんと一緒に帰りたくない

今の大ちゃんは嫌いよ

どうして、越智君やしぃちゃんの気持ちを理解してくれないの?

あたしの気持ちも…わかってくれない

しぃちゃんを悲しませたくないから、出た言葉で…本気で大ちゃんの婚約者になるつもりなんてないのに

大ちゃんだって、あたしが越智君を好きだって知っているはずなのに…わけがわからない

あたし…大ちゃんに何かした?

大ちゃんを傷つけるようなことを知らないうちにしてた?

大ちゃんが、あたしを好きだとは思えない

3年も離れてたんだよ?

就職してから、あたしと大ちゃんは一度も会ってない

それなのにいきなり…結婚したいって言われても困るし…なんで?って思うじゃない

下駄箱で足を止めて、革靴を取ろうとする手を、誰かに掴まれた

「涼宮、帰るなら家まで送るよ」

低い声にあたしの肩がびくっとなった

「お、越智君?」

あたしはゆっくりと振り返ると、Tシャツにジャージのズボンをはいている越智君を確認した

「ジャージの上着は、明日、洗って返すから」

あたしは鞄の中にしまった越智君のジャージを思い出して、口を開いた

「いいよ。今、着るから」

越智君の手が前に出る

ジャージを鞄から出して欲しいと催促しているみたい

「え?」

「だって帰るんだろ? 制服に着替えてる時間が勿体ないから、ジャージで帰る」

「あたし、一人で平気だから。それよりしぃちゃんが、待ってたよ」

越智君が一度、校庭のほうに視線を送った

「しぃは帰った」

「だって、さっき待ってるって」

「ジャージ、ちょうだい」

越智君が、にこっと頬笑みを見せた

あたしは鞄の中から、ジャージを出すと越智君が羽織った

「すぐ鞄を持ってくるから。ここに居て」

「ねえ、しぃちゃんは…」

あたしは越智君のジャージの裾を掴んだ

「何? しぃは涼宮が着替えている間に帰ったよ」

「ううん。なんでも…ない」

あたしはすっと越智君のジャージから手を離した