「だぁーだ」

ベッドで横になってる愁一郎の上に、這いあがろうとしてる1歳児のわが子をあたしは廊下から眺めていた

「だぁーだ!」

「…はぁい」

布団の中で、愁一郎が擦れた声で返事をした

「だぁーだ」

「はいはい」

「だぁー」

「いたたたっ! 愛菜、髪…いてぇ。引っ張るな」

大好きなパパの髪に辿りついた愛菜は、ここぞとばかりに愁一郎の短髪を引っ張り始めた

「陽菜! 俺、夜勤明けでさっきベッドに横になったばっかなんだぞ?」

愁一郎が、起き上がると廊下でクスクスと笑っているあたしに口を開いた

「…て、あれ? 出かけるのか?」

「うん。ちょっとね」

「ちょっと?」

愁一郎の眉がぴくっと反応した

愁一郎は、愛菜を抱っこしながらベッドから出てくる

「どこに行くの? そんなにお洒落して…愛菜を置いてくなんて」

「うーん…言うと怒るから…」

「言わなくても怒る」

愁一郎がむすっとした顔をして、玄関に立った

パジャマ姿で、髪が寝ぐせでぐちゃぐちゃになってる愁一郎にあたしは微笑んだ

「大学病院のぉ……科の先生たちと」

「ああ?」

愁一郎の眉がぐいっと持ち上がった

「決して愁一郎を裏切るとかじゃなくて…その…出会いの場を…ちょっと作ってあげるというか…そのぉ…」

「陽菜はもう俺と出会ってるだろ」

「あたしじゃなくて、レイちゃんが…」