「それは、昨日の返事として受け取っていいのかな?」

「違うって言っても、信じてくれないくせに」

「まあね」

大ちゃんがあたしの手の指を絡めるように手を繋いだ

「だって、しぃちゃん…泣いてた。苦しそうにしてたから…嫌だったんだもん。しぃちゃんには未来がある」

「陽菜にだってあるだろ」

「短いけどね」

「そう決めつめるなよ。陽菜だって長生きできるチャンスがあるかもしれないのに」

「どうだろうね」

あたしはトラックを走り終えた越智君と目が合った

じっと見てくる越智君に、あたしから視線をそらした

大ちゃんに握られている手を引っ張ると、距離を開けて座りなおした

「もう遅いよ。越智はしっかり見てた」

「知ってて、やってたの?」

「もちろん。変な気を起こされたら困るし。陽菜は僕のだって、理解してもらわないと」

「あたしの気持ちを知ってるくせに…大ちゃんはズルい!」

大ちゃんがふっと微笑むと、離れた分だけ大ちゃんが近づいた

「ズルいよ。年を重ねるとね、悪知恵がつくんだ。好きな女を逃がさないために、演技をすることだってあるさ」

大ちゃんが伸ばしてきた手を、あたしは振り払うと、ベンチを立ちあがった

「大ちゃんらしくない! あたしが好きだったのは、陸上馬鹿だった頃の大ちゃんだった。今の大ちゃんは嫌い」

あたしはぴっと口を閉じると、すたすたと歩いて校庭を出た

大ちゃん…おかしいよ

あたしの知ってる大ちゃんは、こんな酷いことができる人じゃなかった

純粋で、陸上しか頭になくて…恋愛なんか全然上手にできないのに、彼女がいた

どうして?

なんで…大ちゃんはこんなことをするの?