懐かしい病院が見えてくると、愁一郎の実家まであとわずかとなった

「あ…」

あたしは、お腹を押さえた

「何? どうしたの?」

運転をしていた愁一郎が、心配そうにちらちらとあたしの顔を見てくる

「動いた」

「え? なに?」

「愁一郎、動いたよ! 赤ちゃんが蹴ったのがわかった」

「ほ…本当に? ちょ…触りたいんだけど」

運転している愁一郎が、家を目前にして路肩に車を止めた

「え? ここに止めるの? 実家の門が見えてるのに」

「だって、動いてるんだろ?」

「ポコッて…ほらっ。ここ!」

あたしは愁一郎の手を掴むと、下腹部に手を乗せた

愁一郎は、首を傾けて、眉に力が入っていた

「…わかんねえ」

また、あたしのお腹の中がポコッとなると、愁一郎の眉がピクっと反応した

「今のか?」

あたしが頷くと、愁一郎が凄く嬉しそうな顔をして微笑んだ

「こん中にいるんだな。赤ちゃんが…」

愁一郎の声に反応するように、赤ちゃんがまたお腹を蹴ってきた

「…かったよ。怒るなよ! いるってわかってるよ」

愁一郎が、お腹に向かって口を開いた

「短気なのは、愁一郎に似たのね」

あたしが口を開くと、「あ?」と愁一郎があたしに視線をあげる

「俺、別に短気じゃないし」

「短気だよ。すぐに怒るもん」