「何を話していたの?」

大ちゃんが、近づいてくるとあたしの隣に腰を下ろした

「え?」

「『しぃちゃん』でしょ、さっきの子」

「うん。しぃちゃんだよ」

「越智愁一郎の彼女…なんでしょ」

「そうだよ。あたしと越智君の仲を疑ってたから…違うよって言ったの」

「疑う…ねえ」

「だって、同じ日に陸上部に入ったんだよ? 不安に思うでしょ」

あたしは大ちゃんの横顔を見る

大ちゃんは、陸上部の生徒たちを見ながら、顎を擦っていた

「…で? 陽菜はどう答えたの?」

「うん…だから違うよって」

「それだけで納得した?」

「え?」

大ちゃん、鋭いから嫌いだよ

きっとあたしがどう答えたか、想像できてるくせに…言わせるんだよ

ズルい

「納得した…よ」

「声が震えてるよ。嘘はつかない」

「ズルいよ」

「ズルくても、聞きたい答えがあるから」

大ちゃんがすっとあたしの手を握りしめてきた

「…で、何て言ったの?」

「大ちゃんと婚約するからって」

大ちゃんの口が嬉しそうに、持ち上がった

「そう。僕と婚約するって」

ズルい…よ、大ちゃん