「偶然だよ」

「偶然かあ?」

レイちゃんがぐいっとカクテルを飲むと、次の飲み物を注文した

「…で、昨日は何があったの?」

顔をあたしに近づけたレイちゃんが、あたしの顔を覗き込んできた

「越智先生に、家に戻ってこいって言われたんだ」

「ええっー。それってすごくない?」

レイちゃんが大げさなアクションと共に、バーテンダーが作ってくれた新しいカクテルに視線を落とした

「レイちゃん、真面目に聞く気ある?」

あたしは、レイちゃんに質問すると、「ごめんごめん」と苦笑した

「越智先生自身もよくわかってないみたいだよ? 記憶がないのが苦しいみたい。昨日、マンションに行ったのはすごく緊張したよ」

「マンションに行って…何をしてきたの?」

レイちゃんの目が輝いた

あたしは「ぷっ」と噴き出すと、首を横に振った

「レイちゃんが期待してるようなことは何もなかったよ」

「ええ? 男と女が密室にいるのに? キスくらいはしたでしょ?」

あたしは首を左右に振った

「ソファで、越智先生があたしの肩に寄りかかって寝ちゃったの。それで、眠いならベッドに行こうって言って。一緒に寝室まで行ったけど……越智先生が寝たのを確認してから、あたしは家に帰ったよ」

「なんで、一緒のベッドで寝ないのよぉ」

「寝れないよ。越智先生は、あたしの知ってる『愁一郎』じゃないもの」

「同一人物だよ?」

「そうだけど…あたしには同じ人とは思えなくて。それに見合い相手の恋人いるし」

あたしはオレンジジュースを一口飲んだ