君を愛す ただ君を……

「ぷっ」とあたしは噴き出すと、家路につこうとしている海東君の背中を見送った

取り戻せるわけないでしょ

あたしはお弁当を袋の中に戻すと、ベンチを立った

越智先生もみちるさんと別れたらしく、一人で病棟に戻ろうとしているところだった

あたしが待ってる人は、『愁一郎』だもん

海東君の知ってる『バカ越智』じゃないよ

あたしはお弁当の袋をゆらゆらと揺らしながら、歩き始めた

病院内に入ると、ピッチが鳴った

『コンパのメンバーは…皮膚科の医師ってどう?』

第一外科に戻る階段の途中で、足を止めて、レイちゃんからのメールを読んだ

「レイちゃんのお目当ては皮膚科の医師かなあ?」

あたしはつい独り言をつぶやいて、慌てて口を閉じた

「あんたって……俺を騙してまで、俺と結婚しようとしたんじゃねえのかよ」

ぼそっと低い声が背後から聞こえてくる

愁一郎とそっくりの越智先生の声にあたしはびくっと肩が跳ねた

ゆっくりと振り返ると、不機嫌な顔をしている越智先生が上から見下ろしていた

「お…お疲れ様です」

あたしはペコっと頭をさげると、ピッチを後ろに隠した

「あんたを見てると苛々する。俺と結婚したがってたんだろ? なのに今じゃ、俺を完全無視かよ」

「あたし、別に騙したつもりはないですから」

あたしは階段を上ろうとすると、越智先生に手首を掴まれた

久しぶりの越智先生の手のぬくもりに、心臓の音が早くなる

「まだ…何か?」

「俺と結婚したいなら、なんで食いついてこねえんだよ。あっさりと家を出て…意味がわからねえ」

「あ……あたしが好きなのは『愁一郎』です。貴方じゃない。今の越智先生は『愁一郎』とよく似た別人です」

「んだよ、それ」

越智先生は「ちっ」と舌打ちをした