そうだよ…あたしより、しぃちゃんと越智君が付き合ったほうがいいんだよね?

あたしはきっともうすぐ死んじゃうから

あたしの気持ちは、隠したままで

しぃちゃんと越智君が一緒に居たほうがいいと思う

「でも今は好きでしょ?」

「ううん。あ、あたしね…実は、大ちゃんと婚約することになって。だから」

ココアの缶を強く握りしめて、震える声を絞り出した

あたしは越智君が好きだよ

すごく好き

だけど、あたしはきっと越智君を好きになっちゃいけないんだと思う

越智君を悲しませたくないし、しぃちゃんを苦しめたくない

もうすぐ消える命だから、静かに消えていったほうがいいと思うの

だから思い出だけ…楽しい思い出だけをあたしにください

「そうなの?」

「うん。昨日、大ちゃんに言われたの。あ…あたし、ずっと大ちゃんが好きだったの。でも大ちゃんには恋人がいたから…。でも昨日、聞いたら、恋人とはもう別れてるって」

しぃちゃんの目がまっすぐに見られなかった

嘘をつくって、こんなにも苦しいんだって知ったよ

自分に嘘をつくって、大変なんだね

「良かったぁ。愁も陽菜も、想い合ってるなら…私はどうしたらって思ってたから」

しぃちゃんは、濡れている頬を手の甲で拭いた

ごめんね

「しぃちゃん、ここに居たら身体が冷えちゃうから…教室で待ってるといいんじゃない?」

「うん、でももう少しここにいる。愁の走る姿が見ていたい」

あたしはしぃちゃんに背を向けると、ベンチに戻った