あたしは、用が終わるなり支払いを済ませて、産婦人科を後にする

大学病院の受付前にあるソファに座ると、あたしは鞄の中にあるピッチを取りだした

愁一郎のアドレスを出すと、手短に用件だけをメールする

携帯を持ったまま、あたしは手を太ももの上に置いて、天井を見上げた

……これで、いいんだよね?

あたし、間違ってないよね?

あたしは自分の下腹部を触っていると、ピッチが震えた

愁一郎からの電話だった

「もしもし?」

『今、どこにいる? まだ病院内にいるんだろ?』

「うん。総合受付の前にあるソファに座ってるよ」

『すぐに行くから。待ってて』

「わかった」

あたしは電話を切ると、ピッチを鞄の中にしまった

5分も待たなかったと思う

白衣の翻しながら階段を下りてきた愁一郎が、きょろきょろと周りを見渡して、あたしを見つけてくれる

乱れた呼吸を落ち着かせながら、あたしに近づいてくる

あたしの前で足を止めた愁一郎が、目に力が入っていた

「ど…して。なんで堕ろさなかったんだよ」

「やっぱり産みたいよ。愁一郎の子供」

受付に座っているまわりの人たちの視線が、こっちに向くのがわかった

そりゃ…びっくりするよね

外科の先生がすごい勢いで降りてきたと思ったら…『堕ろさなかったんだよ』って開口一番に言葉にしたんだもの

あたしは、下腹部を撫でてから愁一郎の顔を見た