「健康な身体でも、出産は悩むよ。私だって、いろいろと考えたわ。大樹が死んで、私一人で子供を育てていけるだろうか?って。最初から最後まで、ずっと不安だった。今も不安。それにね。健康な人が妊娠したからって、絶対に健康な体で出産に望めるとは限らないのよ。身体がむくんだり、血行が悪くて痔になったり、股関節が痛くなって歩くことさえ間々ならなくなったり、抵抗力が落ちて体中に湿疹ができたり、高血圧で食事制限になったり……どの女性も妊娠すれば、一つは二つ、身体に支障をきたすものよ」

彩香さんがあたしから離れると、優しい顔で、あたしの頭を撫でた

「堕ろす人も、出産する人も皆、それぞれ不安と戦ってる。本当にこれでいいのか? この選択は間違ってないか? ときどき、不安になって、ときどき間違ってないって確信する。人生に正解なんてないモノ。陽菜ちゃんが選んだ人生が正解なのよ」

「そう…ですね」

あたしは涙を、指で拭うを笑顔を作った

悩んだり、後悔したり……それを繰り返しながら生きていくしかないんだよね

もう、決めたんだもんね

愁一郎と生きていきたいって

ごめんね、赤ちゃん

あたし、愁一郎と幸せになるから

失った命の分まで、愁一郎と生きていくから

あたしはそっとお腹に触れた

「彩香さん、ありがとうございます。それと出産、おめでとうございます」

あたしは、彩香さんにお辞儀をすると、個室を後にした