あたしは1週間の休みをもらっていた

中絶すると、その後、1週間は家で大人しくしないといけないという説明を受けて、あたしは休みをもらった

愁一郎を仕事に送り出し、大輔君も学校に登校してから、あたしは病院に向かった

バスに乗って、大学病院前で降りる

仕事に行くのと同じ風景なのに、どうしてだろう

気持ちが重いせいか、風景も重苦しく見えてくる

あたしは産婦人科の受付をする前に、彩香さんのいる産科の病棟に足を運んだ

彩香さんは、ベッドに座っておっぱいマッサージをしている最中だった

「おめでとうございます」

あたしは個室に入ると、明るい声で話しかけた

彩香さんが、にっこりと笑って向かい入れてくれる

「あれ? 今日、仕事は?」

「今日から1週間、休みを貰ったんです」

「あ…式の準備とか?」

「いえ、実は……妊娠してて。今日、堕ろすんです」

「そうなの?」

「はい」

彩香さんが立ち上がると、両手を広げてあたしを抱きしめてくれた

「そんな思いつめた顔をしないで。誰も責めないわ」

彩香さんが優しい口調で言ってくれる

「本当にそうでしょうか? 愁一郎が無意識に、お腹を触るんです。そのたびに、胸が痛くて。ほんとうは産んで欲しいって思ってるんじゃないかって。口では、子供はいらないって言ってくれるけど、本心は違うんじゃないかって。そう思って…怖くて」

彩香さんが、そっとあたしの背中を撫でた

「あなたの選択は正しい。命を削ってまで、無理をする必要はないのよ」

「皆、そう言うんです。でもこのお腹の中にも、命があると思うと……あたしは、この命を今日、殺してしまうんですよ? せっかく生まれた命を…。小さくても、心臓の音が聞こえるんです」

「陽菜ちゃん……」

「どうして…あたし、心臓に疾患があるんだろうって…自分が悔しいです。健康な身体だったら、何も考えずに、出産ができたのに」

あたしの目からぽろぽろと涙が零れ落ちていく