嘘……どうしよう

あたしは職場のトイレの個室で、思考が一瞬にして停止した

手の中にある白い棒を見つめたまま、ドアを開けた

あたし、妊娠してる

スカートの上から、あたしはそっと下腹部に触れた

生理が遅れてて、少し体調が良くなかったから…風邪薬を服用する前にちょっと確認しておこうと思って…

ただそれだけだったのに

たぶん、妊娠はしてないだろうけど、念のためにって軽い気持ちで検査をしたら…

「陽性なんて」

愁一郎になんて言えばいいの?

きっと堕胎するように言うよね?

せっかく芽生えた命がここにある

愁一郎の子供がこの中にいるんだ

あたしはトイレから廊下に出ると、ナースステーションに戻ろうと足を前に出した

「陽菜?」

あたしは手に持っている検査薬をカーディガンのポケットに突っ込むと、声のしたほうに顔を向けた

「あ…越智先生。どうしたんですか?」

あたしは明るい笑顔を作ると、愁一郎の顔を見た

愁一郎が、あたしの頬に手を触れると、首を少しだけ傾けた

「少し熱っぽいよ? 他の看護師から、陽菜が具合が悪いそうだって聞いたから、探してたんだ。悪化するまえに早退したほうが……」

「平気! ちょっとした風邪だと思うし」

あたしは愁一郎の冷たい手を払った

「式まであと2週間だよ?」

「2週間もあれば、治るって」

「心配だよ」

「もう、心配しすぎ」

あたしは愁一郎の腕を軽く叩くと、歩き始めた