彩香さんが紅茶をいれてくれた

マグカップをテーブルの上に置くと、彩香さんが隣に座ってきた

「入籍はいつ?」

「式の当日に出しにいく予定です。こんなにスムーズに結婚が決まるなんて思わなかったです」

「反対する人がいないからでしょ? 大樹から聞いたわ。高校生の頃の話。大変だったわね。でもどうして子供を欲しがらないのかしら?」

彩香さんが不思議そうな顔をしながら、紅茶に口をつけた

「あ…これね。ノンカフェインの紅茶なの。今の世の中ってすごいわよねえ」

彩香さんがにこっと笑った

「たぶん、愁一郎が妊娠を望まないのは……あたしの心臓が怖いんだと思います」

「心臓?」

大ちゃんは言わなかったんだ

あたしに心臓の疾患があったって……

「はい。あたし、高校2年生まで心臓の疾患で、ずっと病院通いだったんです。愁一郎のお父さんのすすめで、手術をして、普通に生活ができるようになったんです」

「そっか。だから、愁は心臓外科の勉強をしたがってたのね」

「高校生のとき、愁一郎と約束をしたんです。あたしみたいに心臓の疾患で苦しんでる人は多いと思うから、一人でもその人たちは救ってって」

「そう…なら、私は愁に酷いことをしてしまったのね」

彩香さんが申し訳なさそうな顔をした

「あ…いえ。でも彩香さんがいたから、あたしたちは再会できました。ありがとうございます。それに愁一郎はまだ諦めてないと思います」

「陽菜ちゃんは、愁に大事にされてるのねえ」

「あ…えっと、あははっ」

あたしは恥ずかしくなって、頬が熱くなるのがわかった

お尻をもじもじと動かしていると、ピンポーンと呼び鈴が鳴った

「来た来た。時間通りね」

彩香さんが「よいしょ」と言いながら、立ち上がると玄関に向かって歩き出した