-彩香side-

私はラブホテルを一人で出てきた

夜の冷たい風に身を震わせると、ピンク色のスプリングコートを羽織った

安っぽいホテルだわ

顔が良くても、ただの会社員じゃあ…たいした場所には連れて行ってくれないのね

全然、感じなかった

連れて行ってくれたレストランもイマイチだったし、連れこまれたホテルも大したことないし

挙句の果て、テクニックもまるで駄目な男だった

あーあ、乾いた身体に潤いを与えてはくれないのね

まだ腹3分目って感じで、身体も心も不満足よ

乾いた土に、数滴の水を垂らして、さらに水分への欲求が高まったって感じね

満足いかなかった上に、このままでは火照り損ねた身体が消化不良でどうにかなりそう…

仕事ができて、ある程度、収入もあると…男って寄りつかない

一人で生きていく土台がもう出来ている女って、男には魅力がないみたい

だからって、一人で生きていく覚悟なんてできてない

誰かに愛されたいし、甘えたい

だけど、甘えさせてくれる相手がいないのよ

私は、コートの襟を掴んで胸元を隠すと、早足で歩き始めた

「あれ? 軽部先生じゃないですか?」

軽快な声が、私の真正面から聞こえてくる

は?

私は顔を上げると、身長の高いスーツ男に目を向けた

口の端に、切り傷のあるスーツ男がにこっと笑いかけてきた

「誰?」

「あ…そっか。検査着じゃないから、わかんないか。僕は、岡崎 大樹です」

ぺこっと愛想笑いを浮かべた岡崎さんが挨拶をした

「はあ…、えっと」

私は首を傾げると、『検査着』という単語から過去の患者を想いだそうとした