「一人で処置できんのかよ。現場経験がねえのに、偉そうな発言すんなよ」

「ピーピーうるせえんだよ。文句があるなら、さっさと電話でドクターを呼べよ」

二人の怒鳴り声で、あちこちから処置室内の仕切りカーテンが開く音が聞こえた

「ちょっと…何、言い争ってるのよ」

奥から軽部先生が血のついた手袋を着用のまま駆けつけてきた

「なんでここに愁がいるの? あなたまだ研修医でしょ? 研修の担当医はどこにいるの?」

軽部先生が、眉間にしわを寄せて、越智君の腕を掴んだ

「離せよ。俺が研修医で文句があるなら、さっさとドクターを見つけて来いって言ってるんだよ。この患者はすぐに治療しなければ、死ぬんだぞ? 放っておけるかよ」

「涼宮、輸血の準備をしろ。岡崎の血液型を知ってるだろ?」

「あ…うん。すぐに用意する」

あたしはくるっと背を向けると、走りだした

大ちゃん、死なないで

お願い…死んだら駄目だよ

「海東君、すぐに愁の担当医を呼びだしてっ! 担当医が来るまで私が治療に入るわ」

「軽部先生は内科専門でしょ。それに俺の担当医はもう帰った。連絡が取れても、すぐに戻ってこれない。病院内いるドクターと連絡をして来てもらったほうが早い。この患者にはぐずぐずしている暇はないんだっ」

あたしの背後で、言い争っている声がする

あたしは大ちゃんと同じ血液型のパックを手に取ると、ベッドに戻った

「涼宮さん、研修医を呼んだのはアナタね? あなたを処分する必要があるわ…とりあえず今は外に出ていてちょうだい」

「あ…でも、軽部先生…」

「言いわけを聞いている暇はないの」

軽部先生が怒鳴った

あたしはびくっと肩を持ち上げた

「涼宮、廊下に居たほういい。知り合いの手術を見るのは、かなり辛い。大丈夫、岡崎先生は簡単に死なない」

越智君がウインクをしてくれる

「申し訳ありませんでした」

あたしは軽部先生に頭にさげると、処置室の外に出た

廊下に置いてある長椅子に座ると、深いため息をついた