「あたし、あまり人の顔って見ないから」

「じゃあ、これからは俺の顔は見てよ」

「え?」

越智君が足を止めると、あたしの額にキスを落とした

「俺を見てよ」

越智君が唇に軽いキスをした

「彼女持ちの男が何を言ってるのよ!」

あたしは人差し指で、越智君の額を突いた

「は? ああ、軽部先生のこと? あの人はそんなんじゃないよ」

「コンパをすっぽかして、レストランにいたんだよ? 恋人じゃなくて何なのよ」

あたしはくすくすと笑いながら、越智君から離れた

「やっぱり一人で帰るよ」

あたしはコインパーク内でクルリと身体を回転させると、歩道に向かって歩き出した

「ちょっと待ってよ。俺、涼宮が好きな気持ち…変わってないよ」

あたしは越智君の言葉にぴたっと足を止めた

「でも軽部先生と婚約してるって聞いたよ」

「はあ? してねえよ」

越智君の言葉が荒くなる

高校生の頃の越智君みたいで、ちょっとドキッとした

「じゃあ、なんで一緒にレストランに? 腕を組んだりしてたのに」

「確かに大学生の頃に、婚約の話しはあったし。あの人と見合いもしたよ。だけど、俺はきちんと断った。そしたら希望の就職先に行けないように手をまわされて…なら、大学病院に就職してもいいけど、第一外科にして欲しいって言ったんだ」

越智君があたしの手を握る

「とりあえず車に乗れよ。俺の家で話をしよ」