君を愛す ただ君を……

午前10時

あたしは大ちゃんとロビーで、別れた

大ちゃんは、ロビーにあるカフェであたしの帰りを待っているって言ってくれた

あたしは、エレベータに乗って、越智君のいる部屋へと向かった

越智君…いるといいなあ

あたしは、部屋の前に立つと、呼び鈴を押した

間もなくして、鍵をつけままのドアが少し開いた

細い隙間から、越智君の顔が見えた

「涼宮…ちょっと待って」

一度、ドアを閉めた越智君が、ガタンとロックを外してから、大きくドアを開けた

「どうしたの?」

「うん、越智君に話があって…少し平気?」

あたしが微笑むと、越智君がゆっくり頷いて、部屋に入るように促してくれる

あたしはそっと越智君の部屋に足を踏み入れた

昨日とは、すっかりと雰囲気の変わった室内に、ふと越智君らしさを感じた

ホテル特有の匂いが、薄れて、越智君のにおいが室内に籠っている

綺麗に整えられていたベッドも、すっかりと乱れていた

越智君の格好も制服から、タオル生地のガウンに着替えられている

見たことのない越智君の格好に、ちょっと胸がドキドキした

「何も考えずに、家を出ちゃったからさ。着替えがなくて。もう少ししたら、服を買いに行こうかと思ってたんだ」

越智君が、明るい声で口を開きながらベッドに座った

まっすぐな視線の越智君が、あたしの目を見つめてくる

あたしは、クローゼットの前で足を止めると、ぎゅっと拳を作って息を吸った

「…待って!」

あたしが言葉を吐き出そうとすると、越智君が大きな声で止めた

昨日の決意を一気に言葉にしてしまおうとしたあたしの心が、越智君の制止で崩れていく