「そ。まぁここで立ち話もアレだし。中入りなよ」


そんな邪な感情の素振りも見せず
私はあくまでどこか冷めた様に
彼に背を向け招き入れる。


「お邪魔ーぁ」


きっといつもの気まぐれだから。
雨がやむまでの
気休めでしかない。

だけど私は
それでも構わなかった。

「しお相変わらず綺麗好きだねぇ?」


…誰のせいだと思ってるの。


「こないだ掃除したばっかなだけだよ。なんか飲む?それとも食べる?」
「腹…はー平気。ビールある?」

誰のせいで…

「あるよー。ちょっと待ってて」



そんなに用意周到だと思ってるの。

人の気も知らずに
無邪気に笑っちゃって…

私はキッチンで適当につまめるものを見繕い、
冷蔵庫からキンキンに冷えた缶ビールを2本手に、瑞樹の元へ戻った。


「おぉ~?ヒエヒエ!」

軽やかな音で開いた缶はすぐに傾けられ
彼は細い喉を鳴らす。

「くはー…っ!やっぱ夏はビールだなっ!」


気付かないもんなのかなぁ…


「あんたは仕事帰りのオッサンか」
「ひっで!しおだって立ち上がる時『ヨッコイショ』とか言うだろ~?」
「…たまにね」
「ほらー!」

『やっぱそうじゃん』

そんな事言いながら、瑞樹はケラケラと目を細め笑う。

意識しただけで
正視する事すら出来なくて
だけどたわいない話だけは続いて。

私、今

どんな顔してんだろう。



「…ぉ」



どんな風に
彼を見てるんだろう。



「しーお!」
 「─!何?」