「瑞樹」



私がそう呼んだ彼は
ストライプシャツとジーンズを斑模様に変え

困り果てた様な
でも安堵した様な

なんとも言えない笑みを浮かべてる。


「不用心だよ栞ちゃん。確かめもせずに開けちゃダメじゃん」
「いきなり訪ねて来る様な奴は瑞樹くらいしかいないからね」


私はやれやれと肩を竦め
ドアを大きく開け放した。


「ちょっとここで待ってて。タオル持って来るから」


雨はまた一段と酷く音を立て
蒸した空気が入り込む。

私は少し忙しない足取りで
今し方片付けた洗濯物の中から
大きめのバスタオルを手に玄関へと戻った。


「ありがと」


彼の手はそれを掴み
いつものふわふわの茶色い猫っ毛は
ペタンとおでこに張り付いてる。


「随分濡れてるね。この辺にいたの?」
「んー。15分くらい前まで友達んとこいたんだけどさ。駅に向かってたら丁度降られて。マジ参るよ」
「そっか」


そんな事だろうとは思ったけどさ。
わざわざ私に逢いにくる人じゃないから。

いいんだけど…


「つまりはうちに来る方が近かった訳ね」
「いや、そーでも。なんとなく…かな」


前触れもなく
ほんと、不意に

安らいだ様な瞳を見せるから

…いいんだけどね。
なんて言うか…

…期待しそうになる自分が嫌。