唐突な話題の変化についていけず、なんと答えたらいいか分からないでいる僕に塩谷さんは小さく笑った。
「僕はいると思う。だから僕はこの病院で、あの子を見かけた。一目で彼女の子供だと分かったよ。年齢的に考えて、あの時の子供だと直感した。神様は僕に最後のチャンスをくれたんだ。命の火が消えかかっている僕に、もう一度だけ……」
そうか。そうだったんだ。塩谷さんは雅巳のお母さんを見付けたのではなく、雅巳を見付けた事で、彼女のお母さんを見付けたのだ。
僕は塩谷さんの話を聞いて、本当に神様という存在はいるかも知れないな、と思った。塩谷さんの今の満ち足りた表情は『死』の恐怖などない。至福の表情だった。
塩谷さんにとって、今までの後悔ばかりしていた二十年を思えば、これから『死』を迎えるまでの数カ月は永遠に値するほど、幸せな時間なのかもしれない。
雅巳の母親にしたって、死んだと言い聞かせていた父親に雅巳を会わせるほどだ。
もう、塩谷さんの事を心の中では許しているのだろう。
「そろそろ病室に戻ろうか」
塩谷さんは僕の返事など聞かずに立ち上がった。僕も塩谷さんにつられるように立ち上がる。
「僕はいると思う。だから僕はこの病院で、あの子を見かけた。一目で彼女の子供だと分かったよ。年齢的に考えて、あの時の子供だと直感した。神様は僕に最後のチャンスをくれたんだ。命の火が消えかかっている僕に、もう一度だけ……」
そうか。そうだったんだ。塩谷さんは雅巳のお母さんを見付けたのではなく、雅巳を見付けた事で、彼女のお母さんを見付けたのだ。
僕は塩谷さんの話を聞いて、本当に神様という存在はいるかも知れないな、と思った。塩谷さんの今の満ち足りた表情は『死』の恐怖などない。至福の表情だった。
塩谷さんにとって、今までの後悔ばかりしていた二十年を思えば、これから『死』を迎えるまでの数カ月は永遠に値するほど、幸せな時間なのかもしれない。
雅巳の母親にしたって、死んだと言い聞かせていた父親に雅巳を会わせるほどだ。
もう、塩谷さんの事を心の中では許しているのだろう。
「そろそろ病室に戻ろうか」
塩谷さんは僕の返事など聞かずに立ち上がった。僕も塩谷さんにつられるように立ち上がる。



