君の声が聞こえる

「君とは一度、男同士の話がしたかったんだ」

 塩谷さんはそう言いながら中庭の日当たりのいい場所にあるベンチを選んで腰を下ろした。僕もその隣に座る。

「僕はね、あの子の父親面する事は出来ないと思っているんだ。でも、これだけは聞いておきたい。雅巳は本当にいい子に育った。君はあの子の事をこれからもずっと大切に思ってくれるかい?」

「はい」

 僕は力強く頷いた。
そんなこと言われるまでもない。僕にとって雅巳はとても大切な女の子だ。僕は雅巳が嫌だと言うまで彼女と一緒にいるつもりだし、幸せにできるのは自分しかいないと思っている。

「そうか。その言葉を聞いて安心した。あの子の事は君に頼むよ。僕がこんな事を言う資格がないのは分かっている。でも、あの子は幸せになるべきだ」

 塩谷さんはここ最近、大分やつれた印象を受けた。癌の治療の苦しさが彼の体を蝕んでいるのが分かる。

「塩谷さん、僕も聞きたい事があるんです」

 僕は重い口を開いた。それは、ずっと聞きたくて聞けなかった事だった。

「どうして須藤のお母さんと別れたんですか?」

 そして、どうして今になって雅巳の前に現れたのか?