それがたとえ、雅巳がらみだったとしても。

加藤君に、その意識が全くないのは分かっていたけれど、私にとっては大好きな男の子とのデートのような気持ちだった。雅巳には申し訳ない気持ちになったけど、年に一度の事だから、今日だけでいいから加藤君を貸してね、と心の中で雅巳に謝っていた。

 加藤君は雅巳の誕生日を聞いて驚いたような表情をしていた。

「四月六日?」

「そうだけど……その日に何かあるの?」

「いや、何も。ただ、去年の入学式の二日前だったんだな、と思って」

 そういいながら、何か嬉しそうな顔をしている。加藤君は、この日に何か思い入れがあるのかもしれない。

「もし、加藤君に用事があるなら私一人で行くけど……」

「いや、用事なんかないよ。そうだね、一緒に行こうか」

 加藤君は私の気持ちを知らない。だから、こんなに優しい笑顔を向けて一緒に行こうと言ってくれる。

もし私の気持ちを知っていたら、こんなに簡単に私の誘いに乗ったりしないだろう。

「じゃあ、講義が終わったら駅前のデパートを見に行こう!」

「分かった」

 私は雅巳を裏切っているという罪悪感と加藤君への想い、すべても押し込んで、笑顔を浮かべた。