「しばらく休ませておけば気がつくだろう。もし君さえ良ければ、この子をベットに運んでくれるかね?」

 岩清水医師は、そう言って白いカーテンを指差した。どうやらカーテンの向こうにベットがあるらしい。僕は言われるままに、雅巳を抱き上げてベットに寝かせた。

 病院でよく見かける太いパイプの簡易ベットに雅巳を寝かせると、雅巳の睫が震えた。

 考えてみると、雅巳をこんな近くで見たのは初めての事だった。

 雅巳の甘い香りをこんなに近くで感じるのも初めての事だ。

「気がつくまで……須藤に付き添っていたいんですけどいいですか?」

 僕の言葉に岩清水医師は、静かに微笑んでくれた。

「どうぞ」

 岩清水医師はとても穏やかな人のようだ。僕は彼に好感を持った。もし、岩清水医師が雅巳の事を知っているからといって馴れなれしい態度をとったりする半田のような奴だったら反発を覚えたに違いない。

 僕は雅巳の寝顔を見つめる。

カーテンの向こうにいる岩清水医師の存在を感じながらも、まるで二人だけでここにいるような気分を味わっていた。

雅巳は眠っていても綺麗だった。まるで眠りの姫のような寝顔だ。