ここには医師が常駐しているわけではないので、医師がいない事も多かった。その時は大学病院のほうに回されることになっていただろう。

若い医師は雅巳を見ると、診察台に横たわらせるように指示をした。僕が言われたとおりにすると、脈を調べたり、瞳孔を調べたり、胸に聴診器を当てて調べている。

一通り調べ終わった後、その医師は僕の話を聞きたがった。

「一体どうしてこうなったのか説明してくれるかね?」

 若い医師の胸には『岩清水』という名札のプレートが付けられていた。

 僕は、この若い医師に分かる範囲で説明をした。話し終わると岩清水医師は、雅巳に視線を向けた。

「私が知っている限り、この子はそんな無茶をする子じゃないんだけどねえ。まあ、ずっと我慢してきた反動で、最近は調子良かったから無理してしまったのかもしれないな」

「先生は、須藤の事を知ってるんですか?」

「知っているも何も……この子は小さい時からS大病院に通ってきているんだよ。私が研修医だった時、この子は入院していて、私が担当だった事もあるんだ」

「……」

 僕はこの時、目の前にいる岩清水医師に雅巳の病状を聞きたい衝動に駆られた。

しかし、通常、医師には患者の病状を他人に知らせてはいけないという守秘義務というものがあるのだ。きっと聞いたところで教えてはくれないに違いない。

 黙りこんだ僕の沈黙をどう捉えたのか、岩清水医師は「大丈夫だよ」と優しい口調で僕に話し掛けてきた。