君の声が聞こえる

でも今は違う。私はその腕から逃れて、雅巳の顔を睨みつけていた。

「雅巳なんて大嫌いよ!顔も見たくない」

そんなこと一度だって思った事はなかったはずだった。それなのに、泣きながらそう叫ぶと、その気持ちも私の中に存在する本音だという事に気付かされる。

 雅巳は一瞬、表情を曇らせたが、すぐにいつもの優しい表情に戻った。

「良枝の気持ちは分かったわ。余計な事かもしれないけど、元気を出してね」

 雅巳は気遣わしげな視線を私に向けて、そのまま、私を置いて私から離れていく。

それがとても悲しい。自分から雅巳を傷つける言葉を口にして、拒絶したのに雅巳を失いたくない。その気持ちも私の中に存在する。私はその場から動けなくなって、混乱していた。

 自分の気持ちが分からない。 

 雅巳が大切。誰よりも大好きで失いたくない。

 それなのに、雅巳といるのが苦しい。一緒にいたくない。

 私の中で共存する二つの相反する本音。

 私は一体どうなってしまっているんだろう。最近、自分の気持ちをコントロール出来ない。私は一人、途方に暮れるしかなかった。