何を問いかけても、貝のように口を閉ざした私を心配したように、雅巳の手が私の額に伸びてくる。冷たい雅巳の手が私の額に触れた時、私の中で口では言い表せないような嫌悪感が渦巻いた。

「やめてよ!」

 私に手を払いのけられた雅巳が驚いたような表情で私を見ていた。

悲しげな表情をしても雅巳はとても綺麗な顔をしていた。それが余計に私の気持ちをかき乱した。

雅巳を傷つけたいわけじゃない。それでも、私の中で生まれてしまった感情は収まる事なく、雅巳に対してひどい言葉を投げつけていた。

「何で私がこんな気持ちにならなきゃいけないの!」

「良枝……?突然どうしたの?」

「雅巳は何も分かっていないわ!」

 自分でも処理できない感情を雅巳にぶつけた。

「何も分かってない!」

 自分でも自分の感情を持て余し、大きな声で雅巳を怒鳴りつけながら、私は泣いていた。

 どうして、こんなに苦しいんだろう?

 何がこんなに悲しいんだろう?

「良枝?」

 雅巳が泣いている私を抱きしめようと腕を伸ばしてきた。私が嫌な思いをして泣いた時、雅巳はいつだって、私を抱きしめて頭を撫でてくれた。実の姉や母親のように。