私のエピローグ

(加藤良枝編)


 あの人が逝ってしまった。一時は小康状態を保っていたのに、あっという間に亡くなってしまった。

私にはあの人が、家族よりの雅巳の事を選んだような気がしてならなかった。

 二十年間も一緒にいたのに……。

「母さん」

 雅巳にそっくりな顔をした私の息子が、私の事を抱きしめた。

私は病室の外であの人の死を重く受け止めながら雅樹君の胸の中に顔を埋めた。

 雅樹君の体からは雅巳と同じ匂いがした。

 血の繋がった親子というのはこんな所まで似るものなのだろうか?

 私は雅樹君に抱きしめられながら、雅巳に抱きしめられているような錯覚に陥った。

「雅巳……」

 小さく洩れた呟きは雅樹君に聞こえてしまったのだろうか?

 まるで、私の呟きに反応するように雅樹君が私を抱きしめる腕に力をこめた。

「雅樹君、パパはこの二十年間、幸せだったのかしら?」

「母さん、馬鹿だな。幸せだったに決まっているだろ?俺は父さんの笑っている顔しか思い出せないよ」

 私は雅樹君の言葉に救われたような気がした。そして、その時になってようやく、目から涙が零れた。そして子供のようにワンワンと声をあげて泣いたのだった。

 私の頭をなでる雅樹君の手は温かかった。