泣き顔を見せたくなかった雅巳。変わってない。僕の雅巳だ……。

　後は何も考える事が出来なかった。

　僕は雅巳に向かって走り出した。

川を渡るとき、雅巳の「駄目よ！こっちに来ないで！」という声が聞こえたが、僕は構わずその川を渡りきった。

「やっと会えたね」

　目の前にいる女は間違いなく、二十年前に僕の手からすり抜けて逝ってしまった僕の妻だった人だった。

　僕の言葉に雅巳は涙を零したまま、「駄目だって言ったのに……」と呟いた。

　僕は雅巳を抱きしめた。ずっとこうしたかった。雅巳に触れて抱きしめたかった。

脳裏にはどういう訳か、雅樹の顔ではなく愛奈の顔が浮かんだ。その愛奈に「ごめんな」と謝る。

あの頑固な娘はきっとこの結果に傷つくだろうと思うと、心が痛んだ。

「みんなが悲しむわ……」

　僕は悲しそうに僕の胸の中で顔をうずめる雅巳に「いいんだ」と言葉をかけた。

「俺は雅巳にもう一度会えたら絶対に手を離さないって決めていたんだ。それに二十年間の君との約束を守ってきたんだから、大目に見てくれよ」

　抱きしめた雅巳の体からは僕の心を落ち着かせる僕の好きなあの甘い匂いがしていた。