「何で?やっと会えたのに」

「あなたはこっちに来るには早すぎるわ。それにあなたには待っていてくれる人がいるのよ」

 僕の脳裏に浮かぶのは家族の顔だった。

確かに雅巳の言う通りだ。僕には待っていてくれる人がいる。

多分、これはただ夢じゃない。

雅巳の方に行ったら、もう二度と戻って来れないだろう。

雅巳はそれを教えてくれている。

 僕は雅巳に頷いた。

「こんな形でも会えて良かったわ。睦月、幸せにね」

 僕の目に雅巳の笑顔が飛び込んできた。

その笑顔を心に刻み付けて僕は雅巳に背中を向けた。

雅巳の言う通りまっすぐ歩いて行くと、雅巳の言う通り遥か向こうに光が見えた。

 あっちに向かえばいいんだ、そう思いながら僕は後ろを振り返ってしまった。

 最後に雅巳の姿を目蓋に刻み付けたくて。本当にそれだけの気持ちだったのだ。

 それなのに。

 雅巳は笑っていなかった。

 僕の知っている雅巳はいつだって笑っていた。でも、今の雅巳は泣いている。

それは僕の一度も見た事のなかった雅巳の表情だった。

こんなに離れているのに、僕は零れ落ちる雅巳の涙の雫さえ見る事が出来た。

「振り返らないでねって言ったのに……」