発情期の猫が鳴いているような声が、手術室いっぱいに響き渡った。

それは死産だと思われていた赤ん坊の泣き声だった。それは赤ん坊が自分の力で呼吸を始めた事を示していた。

まるで、雅巳が自分の命と引き換えに、赤ん坊の命をこの世に留めたように僕には思えた。

そう感じているのは僕だけじゃないだろう。

手術室内の時間が動き出した。

赤ん坊のために慌しく看護婦が動き、心臓外科の医師が雅巳に心臓マッサージを施しているのが見えた。

しかし、心臓外科医はすぐに心臓マッサージを止め、雅巳の瞳孔を調べた。

そして沈んだ表情で首を振ったのだ。看護婦が痛ましそうな表情で僕の前に赤ん坊を連れてきた。

臨月で生まれてしまった我が子は小さかったが、その顔には僕の愛した雅巳の面影を見つける事で出来る。

「少し小さいけれど、元気な男の子ですよ」

 雅巳が息を引き取ってしまった今、おめでとうとは言えなかったのだろう。

僕は赤ん坊を慣れない手つきで抱かせてもらいながら、雅巳の顔に赤ん坊を向けた。

「雅巳、俺達の赤ちゃんだ。雅巳が欲しがっていた男の子だってさ」

 雅巳は僕の言葉に答える事はない。もう二度と。