僕は、雅巳の主治医に心から感謝した。手術室の外で雅巳の死を知らされるのを待つだけではツラ過ぎる。

僕は言われた通り、小学校の頃に給食当番が着ていたような無菌服と帽子を被り、手術室に足を踏み入れた。

手術台では青い顔をした雅巳が横たわっている。僕はそんな雅巳の頭の辺りにいて、帝王切開の手術の邪魔にならないように雅巳の手を握った。

(雅巳、頑張れ!)

 心の中で雅巳に話し掛ける。何に対しても頑張れなのか、実は僕自身、分からなくなっていた。

そんな言葉をかけるまでもなく、雅巳は今まで頑張り続けていたし、むしろ、もういいんだ、と言ってあげるべきなのかもしれない、という思いも心の中にはあった。

 しかし、その言葉をかけたくはない。

 その言葉をかける時には、僕は雅巳の命を諦めなくてはいけなくなってしまう。

 雅巳を診てくれている医師達が雅巳の生を諦めても、僕だけは奇跡を信じていたかった。

再び雅巳と一緒に僕達の家に戻るんだ。新しい家族と一緒に。

 そんな僕の思いとは裏腹に、看護婦の言葉にその場に緊張が走った。

「先生、新生児が自発呼吸をしていません!」

 僕は看護婦の言葉に顔を上げた。