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手術室の前は騒然としていた。

 もう雅巳は助からないという事は、その場の空気から感じる事が出来た。

 おそらく、お腹の中の子供だけでも助ける方向で話がまとまったのだろう。雅巳の手術は二人の産婦人科の医師と心臓外科の雅巳の主治医をしていた初老の医師が付き添って手術を始める事になった。

僕は説明を受け、帝王切開の同意書にサインをした

が、何がなんだか分からない状態だった。

本来だったら、雅巳の母親に連絡をしなければいけなかったんだろう。そこまで気が回らなかった。僕はただ、最後まで、雅巳の側にいさせてくれ、出産に立ち合わせてくれ、と哀願するしか出来なかった。

 初めのうちは、そんな事は無理だ。手術が終わるまで待っていてください、と諭されたが、雅巳と長い付き合いの心臓外科の主治医がそんな僕に同情してくれたのだろう。

医師団と何事か話して、条件付で手術室内に入ることが許された。手術室では歩き回らない、声も出さない。僕が出来る事は雅巳の手を握って心の中で力付けるだけだ。

勿論、無菌服着用とうがい手洗いを義務つけられてではある。