たとえ、混んでいても、この状態を見たらすぐに診てもらえるだろう。

 僕は走った。雅巳を抱き上げたまま何も考えずに、ただ全力で病院に向かって走った。

 病院の自動ドアをくぐった時、僕は白い白衣を着た人物とぶつかりそうになった。

 謝る気持ちの余裕もなく、走り去ろうとした僕に、その人物が声をかけてきた。

「待ちなさい。君は……確か、加藤君じゃないか?」

 その声に聞き覚えがあって顔を上げると、そこには以前一度顔を合わせた事がある岩清水医師が立っていた。

「どうしたんだい……?そんなに慌てて……」

 しかし、答えるまでもなく、僕に抱かれている雅巳を見て事態を悟ったらしい。

「発作か……。薬は?」

「飲ませました」

「確か、この子は妊娠しているんだったね。これから私が心臓外科と産婦人科の手の開いている先生に声をかけるから、君はすぐに受付に行って訳を話してカルテを用意してもらってきなさい!」

 岩清水医師の的確な指示が僕の混乱した頭を正常に機能させた。

岩清水医師は僕に雅巳をゆっくりと床に下ろさせると、近くにいた看護婦を呼んでストレッチャーを用意させた。そして、雅巳をどこかに運ばせて行った。