それに料理も上手だ。家事もサボったりしない。

こんな人間が本当に、この世に存在するんだろうか?

もしかしたら、今、現実だと思っているこの時間は幸せな夢で、現実には『加藤雅巳』などという僕の奥さんは存在しないのではないだろうか?

僕はそんな考えを振り払うように立ち上がった。

「行こう。予約の時間になっちゃうぞ」

 雅巳は僕の言葉に頷いて立ち上がろうとした。しかし、その瞬間、雅巳の華奢な体が揺らいだ。

「雅巳?」

 慌てて支えた僕の腕の中で雅巳は意識を手放した。

 こんな事が前にも一度あった。

あれはまだ雅巳が大学に通っていた頃でバトミントンに雅巳が参加したのが原因だった。

あの時は発作ではなくて、大事には至らなかったが、今の状況はあの時と明らかに状況が違う。

 苦しそうに顔を歪め、肩で息をしている姿はどう見ても尋常ではない。

 発作が起きた!

 本能的にそう思った僕は慌てて雅巳のバックを開けて、常備薬を取り出した。

雅巳が発作を起こして意識をなくした時は、飲ませてくれるようにと言われていた薬だ。

 僕は口移しで雅巳の薬を飲ませると、雅巳の華奢な体を抱き上げた。ここが大学で良かった。病院が目と鼻の先だ。