神様、もしその存在があるとしたら、僕の寿命を雅巳に分けてください。

世の中には人間の命を虫けらのように扱うようなロクでもない人間が、生きているのに、どうして雅巳が死ななきゃならないんだ。

雅巳は、ただ僕との幸せを望んでいるだけなのに。

もし、この場に悪魔が現れて、雅巳の命を助けてくれると言ったら、僕は迷う事なく自分の命を差し出しただろう。


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雅巳の本当の状態を知ってしまった二日後

その日は、僕達が出会ってから三度目の雅巳の誕生日だった。

 大学病院の産婦人科の診察に二人で来ていたのだが、雅巳が「二人が出会った場所の桜が見たい」と言ったのだ。

僕は雅巳を抱えるようにして、二人が通った経済学部の校舎の前に連れて来た。

その日も、雅巳と初めて出会った時のように、よく晴れていて、少し風が強い日だった。

桜並木から風で運ばれてきた桜の花びらが雅巳と僕の元に春の匂いを運んできた。

「綺麗ね」

 雅巳はフワリフワリと舞う花びらに手を伸ばした。

「本当に綺麗」

僕の目にはそう言って目を細めた雅巳が輝いて見えた。初めて出会ったときよりも、

今の雅巳は何倍も綺麗だ。強くて優しい僕の奥さんは、まるで桜のような人だと思う。

「睦月……私、あなたに出会えて良かったわ」

 微笑む雅巳に僕は胸が高鳴った。

 僕は結婚までした相手に何度も惚れ直している。こんな夫婦関係など、本当に存在するんだろうか?

自分の両親や友達の親の話を聞いてきた僕には半ば信じられない思いがする。

雅巳はいつも幸せそうに微笑んでいて、生活の事や習慣の違いで僕と喧嘩や争いなどしない。

いつだって穏やかな時間を僕に与えてくれる。