それとも雅巳の方が、この緊急事態に混乱して正気を失っているのだろうか?

しかし、雅巳の様子はいたって冷静で、顔色が悪い事以外、普段の雅巳と何ら変わりがなかった。

「良枝はこの子を産んでいいと思う?」

「ちょ、ちょっと待ってよ。雅巳は間違っているよ。それを話し合うのは、私じゃなくて加藤君とでしょ?」

「分かっている。加藤とも話し合うわ。でも、それは良枝がこの子を産んでいいと言ってくれたらね」

「はあ?」

 雅巳の考えている事が分からない。どうして私にこんな事を言ってくるのかも分からないし、加藤君より先に私に話しに来たという意図も理解できない。

私も考えてもいなかった事態に、混乱しているが、雅巳も混乱しているのかもしれない。

 だから、こんなおかしな事を言ったりしたり、したりしているのかもしれない。

「じゃあ、もし私が産まないでって言ったら雅巳は赤ちゃんを産まないつもりなの?」

 意地悪で言ったという感覚もなく、自分の中にある思いを口にした。さっきから雅巳の言っている言葉を真に受けるのなら、雅巳は私の答え次第で赤ちゃんを諦めるつもりだ。

「諦めるわ」

「どうして?」

「どうしてもよ!」