心なしか、雅巳の顔色が悪いような気がするのは私の気のせいだろうか?

「何かあったの?」

 私の問いかけに答えようとせずに、雅巳は私の手を引いて先刻、座っていたベンチに腰を下ろすように促した。

「十月とは言え、まだ暑いわね」

 雅巳の声音に戸惑いが滲んでいた。どうやって話そうかという迷いが見える。

雅巳が動揺しているのが分かる。

その事に私は驚いてしまった。

こんな雅巳を見るのは初めての事だ。実際、いつだって冷静な雅巳は、こんなに動揺するような事に直面した事がないのだろう。いつもと比べ物にならないぐらい表情が豊かになっている。

戸惑い、困惑、迷い。

雅巳の表情から窺い知ることが出来るのは、普段の雅巳には縁のない感情ばかりだ。

「どうかした?」

 私の言葉に雅巳が溜息を吐き出した。そして、覚悟を決めるように深呼吸を繰り返す。

「良枝……私、私ね……」

 雅巳は一度言葉を切り、もう一度息を吐き出した。そして観念したように、一気にその言葉を口にした。

「私のお腹の中に赤ちゃんがいるの」

「あ、か、ちゃ、ん……?」

 赤ちゃん……?

 私は頭の中で雅巳が口にした言葉を反芻してみる。