君の声が聞こえる

「だって、加藤、お父さんのお葬式の時、ヨダレでもたらしそうな顔で私の母の事を見てたじゃない。それって私と同じで、母が好みの顔をしていたからでしょ?それって、もし出会ったのが母の方が先だったら母を好きになっていたって事じゃない?」

 その言葉で、僕は自分の目の前にいる可憐な恋人が自分の母親に対して嫉妬までしていた、という事に、その時になって初めて気がついたのだった。

 雅巳の目には塩谷さんの葬式での僕の態度が雅巳に不信感を生みつけた。

 僕としては塩谷さんと雅巳の母親の純愛に思いを馳せていたのだが、そんな事は知らない雅巳には僕の態度が挙動不審に映ったのだろう。

 そして、その原因を考えた時、ポケーと雅巳の母親を見つめていた(本当はそんなじゃないんだけど)ことに思い当たったに違いない。

 僕は、この時、『自分の行動に気をつけなければ、大切なものを失う事になるかもしれない』という事を実感として感じる事となったのだ。





 何とか誤解を解く事に成功した僕は夏休みに予定していたバイトの時間を減らし、雅巳に会う時間を増やした。