君の声が聞こえる

「何を謝るの?」

「だって雅巳、怒っているんだろ?」

「何も怒っていないよ。それに何が悪いのかも分かっていないのに謝って欲しくない。そういうの男らしくない」

 毅然とした雅巳の言葉には揺らぎがなかった。彼女にこんな一面があったという事を知って僕は心の中だけで嘆息を漏らした。

僕は雅巳に、こんな気の強い面があるなんて知らなかった。いや、知ろうとしなかったのかもしれない。

僕の中で雅巳は理想の女になってしまっていた。

それは彼女に人間らしい感情がある事や彼女の勝気な性格を理解しようとしていなかったのではないか、と今さらながら反省させられた。

「大体、うたた寝してしまうほど疲れている事に問題があるんじゃないの?」

 あれ?今の言葉に僕は何か雅巳の複雑な感情が表に出たのを感じた。

「疲れてなんか……」
 ない、と否定しようとした僕の顔を雅巳がじっと見ていた。雅巳に見つめられて僕は言葉を切った。

「本当に疲れていないの?」

「少し……疲れているかもしれないな」

 僕の正直な告白に、雅巳の表情がほんの少しだけ優しくなったような気がした。

「バイトのし過ぎで?」

「え……?」