君の声が聞こえる

こういう事を聞くと、雅巳の体はいつ壊れてもおかしくない儚いものなのだと思い知る。

いつだったか、雅巳は僕と出会えた事は奇跡だと言った。

今は本当に雅巳の言うとおりだと思う。

「雅巳のお見舞いに行ってあげたら?」

 良枝の言葉に背中を押されるようにして、バイトを休んで雅巳の見舞いに向かったのは、雅巳が入院してから二日目の事だった。

 明日には戻ってきてしまうので、『今日しかない』と思ったのだ。

 いくら雅巳が僕を避けていても入院している今、逃げ出す事は出来ないだろう。

 そう決心して、花屋で適当に選んだ名前も知らない黄色い花を花束にしてもらうと、雅巳の病室に向かった。

 決心が鈍らないように、思いっきり気合を入れて病室のドアを開けたのに、雅巳は検査中で病室にはいなかった。

 僕は病室にある空っぽの花瓶に買ってきた花束を生けると、個室で誰も見てないのをいい事に病室のベットに顔を押し付けた。

 雅巳の匂いがする。

 甘い匂いだ。

雅巳に抱きしめられていると錯覚してしまうような甘い匂いに包まれて、僕は深く息を吸い込んだ。

こんなところを誰かに見られたらおかしな奴だと思われてしまうかもしれない。