君の声が聞こえる

 私の気持ちを雅巳は知っている。それだけじゃなくて、今、私がどんな気持ちで、雅巳と対峙しているのかも鋭い雅巳には分かっているに違いない。

「雅巳、加藤君とちゃんと話し合ったほうがいいよ。九月になったら川原ゼミの合宿でしょ?二泊三日も一緒なのに、そんなじゃ気まずいんじゃない?」

 私の言葉に雅巳は苦い笑いを口元に浮かべた。

 雅巳のしなやかな手が私の髪の毛に触れた。

「本当に……良枝はいつの間に、こんなにしっかりしちゃったのかな。驚いたわ」

 そして、雅巳は私を魅了して止まない美しい笑顔を浮かべ、私を抱きしめた。

「良枝は本当に私の大切な友達なのよ。それだけは本当なの。信じてくれる?」

私は雅巳の細い背中をぎゅっと抱きしめ返した。

雅巳は細かった。雅巳の体はこんなに頼りなげだっただろうか?

「私にとっても雅巳が一番大切なんだよ」

 雅巳に悲しげな顔は似合わない。いつだって、私を虜にしたあの笑顔でいて欲しいのだ。

 どうして私は今まで、そんな簡単な事に気付けなかったのだろう。

「ちゃんと加藤君と話し合うんだよ」

 雅巳は私の肩越しで何度も頷いていた。

「ありがとう。ありがとう、良枝」

 私は雅巳の温もりと甘い匂いに包まれて目を閉じた。

 幸せになるんだよ、雅巳。心の中でそう呟きながら。