「ありがとう。陸くん、手慣れてる感じだね?」
ちひろは、受け取った下駄をしげしげと眺めていた。
「うん。俺、よく下駄とか雪駄とか履くから。母親が着物好きで、小さい頃から良く着物も着てたよ。」
「へええ!似合うもんね。でも着物に慣れてるのって、なんだか格好いいね!」
別に俺が格好いいと言われたわけじゃなかったんだけど、嬉しかった。その時ばかりは母親に感謝した。
そう言うちひろも着物が似合っていると思う。自分に似合うものを分かっているのかも知れない。ちひろは素直なのか、さらりと゛似合ってる゛なんて言ってくれたけど、俺は…言えなかった。
「君も着物が似合ってるよ」なんてセリフ…恥ずかしくて言えないよなあ…。
ふと見ると、ちひろはまだ、下駄を手に持ったままだった。
