「でも・・・。私、陸くんには彼女がいるんだと思ってた。」
視線を外しながら、俯くちひろ。
「え・・・?自慢じゃないけど、俺、彼女っていたことないよ・・・?」
情けないけど、本当のことだ。ちひろはびっくりした顔をして、俺を見上げた。
「じゃ、じゃあ、さやかさん、っていうのは?彼女じゃないの?」
「紗耶香さん???啓太の姉ちゃんの、紗耶香さん?」
「え?啓太くんの、お姉さんなの?」
「ああ。俺と啓太は小さい頃から兄弟見たいに育ったって言ったろ?紗耶香さんにも、弟みたいに苛められるんだよ。今だに。・・・でも、どうして紗耶香さんのこと知ってるんだ?」
ちひろは、言いにくそうに、道端で俺と紗耶香さんが話していたこと、剣道場に稽古を見にきたときのことを話してくれた。
「陸くん、紗耶香さんにほっぺたをつつかれたりしてたから。恋人同士なのかなって。その後のお稽古の時も、啓太くんが、“あの人の愛情”みたいなことを言っていて、陸くんもそれを否定しなかったから。
やだ。勘違い、だったんだ・・・。」
そういうちひろは、ちょっとホッとしたように見えた。
