あれ…?どこ行くの、かな?

そっと薄目を開けると、水の入ったコップを持って戻って帰ってくるところだった。

「ちょっと水、飲んだら?…猫舌、なんだね?」

そして、私の口許をじっと見て、

「ああ、唇、皮剥けてる…」

と身体を近付けて、指でそっと、唇に触れた。

「きゃ…」

ビックリして、思わず身体が逃げた。私は赤い顔のまま、しばらく陸を見つめていたんだと思う。陸も、驚いた顔で私を見つめていた。

どのくらい見つめ合っていただろう。陸が、ハッとした様子で手を引っ込め、

「…あ…。ご、ごめんっ!つい…。痛そうだなと思ったら、無意識に…。急に触られたら嫌だよね。…ごめん。」

最後は、自分の両手を眺めながら下を向いてしまった。

陸は陸で、自分の行動に驚いているみたいだった。

嫌な訳じゃなかった。ビックリしただけだったのだ。私は、そう言おうと思って顔をあげたのだけど、

「嫌とかじゃ・・・・!あの、ええと・・お水、ありがとう・・・」

あまり言葉が出なかった。


全然、嫌じゃなかった。むしろ、嬉しかったのかもしれない。でもそれは恥ずかしくて言えないから…。

しばらく沈黙が続いた。

なんかちょっと、気まずい…。

チラリと陸を見ると、情けない顔をして肩を落としている。

別に陸くんは悪くないのに…。心配してくれただけなのに、あんなにションボリしちゃって…。

「陸、くん?」

呼び掛けると、やっぱり情けない顔のまま、顔を上げた。眉が八の字に下がっていた。