その日、俺はいつもにも増してぼんやりしていた。

「ィ…く…!」



「おい、陸っ…!」


「…!?」


耳元で怒鳴られて、やっと呼ばれてるのに気がついたらしい。耳はキーンとしていたけど、それでも俺はぼんやりした目でゆっくり顔を上げた。

目の前には、幼馴染かつ親友の啓太が呆れ顔で立っていた。

「…何?」

「何じゃね―よ!もう授業は終わったの!部活の時間!」

「え?」

「はぁ…陸、お前、今日どうかしてるよ…。昼もうどんにソースかけてふつーに食べてたしさ…。…何かあったわけ?」

啓太は、心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

こいつは中嶋啓太。保育園のときから…正確に言うと一歳すぎからの腐れ縁で、付き合いは15年になる。保育園から、小学校、そして今通っているこの中高一貫の男子校までずっと一緒だ。

部活も剣道部で同じ、さらに家まで近くて、特に母親同士が仲がいい。啓太の姉、俺の兄と弟含め、家族ぐるみでの付き合いで、たまに2家族で旅行に行ったりもする。

というわけで兄弟みたいに育った俺たちは、お互いのことはよく知っている。そんな啓太が心配するほどだから・・・

今日の俺はよっぽど変なんだろう。

「う―ん……。ごめん、俺帰るわ」

「!?!!? おまっ・・・ホント大丈夫か?風邪でも無いのに、陸が部活を休むなん・・・ありえない・・・何か変なものでも食ったのか・・・いやそれとも・・・」

勝手に悩み始めた啓太を置いて、俺は帰ることにした。

「啓太、部長に今日休むって言っといて・・・」

啓太が聞いていたかどうかはわからないけど、とにかく帰ることにした。勘の鋭い啓太に細かく突っ込まれる前に一人になりたかったし

・・・啓太にいろいろと言われなくても、このぼんやりの原因は、自分では分かっていた。



あの娘のせいだって・・・。