「ぎっ…がぁああ……っっ!!」


ナイフを持っていた男の手が、恐ろしいほどの歪み具合でねじり上げられた。

痛みに逃げたがる人間の本能は、男も同じだったよう。

キサラギとは逆の方向に体を向け、手から逃れようとする。

しかしキサラギは離そうとせず、男の後ろ首に軽く手の側面を当てた。

途端、男は力が抜けたように、冷たいアスファルトの上へと倒れた。

気絶させたらしい男を見下ろす、キサラギ。

表情は、微笑を浮かべている。




「口ほどではありませんね。そんな戦闘力で、私からお嬢様を奪えるとでも?







――ナメんなよ、三下(さんした)」







……口調が…変わった…!!


なんて驚いているわたしなんか露知らず。

キサラギは手袋を口で外しながらこちらへと足を向けると、
ぼけっとしていたわたしへと、揺るぐことのない足取りで、歩いてきた。