「走りますよ。大丈夫ですか?」

「…えぇ、平気よ!今ならどこまででも走れる気分よ!」


普段じゃありえないセリフを吐いたわたしに、キサラギは楽しそうに笑う。

だからわたしもつられて笑った。


談笑の声が遠くなっていく。

グラスのぶつかる音が聞こえなくなる。


屋敷を飛び出して、向かう先はきっと素敵な場所。




……嗚呼、おかしいわ。


キサラギは執事なのに、どうしてかしら。





――今は、王子様に見えてしかたないのよ。