私は迷った。
 が、
 
 交換しよう。
 
 一旦はそう決意した。
 
 しかし、
 
 そのカミサン風の男が持っていた時計は
見るからに臭そうで、
はめたら手が腐りそうな感じだった。
 
 それに比べて、
 
 自分の時計は、
 
 確かに貢ぎ物だが、
 
 1万や2万の時計じゃないので

私はまた迷ってしまった。

 すると

 「そうだすよなあ。
ただでも、いい時計だすもんなあ」

 男は残念そうな声で言うと、
私に時計を返して寂しそうに席を離れて行った。

 「あー、せっかくのチャンスを」

と何故か隣の男が悔しがった。

 そこで、

 私がその男に

「やっぱり、今のがカミサンですか」

と訊くと、

 「知っていて交換しなかったんですか。
交換してあげて宝くじを買えば大金持ちになれたのに、
逃した魚は大きいですよ」

と呆れたような顔で言うと

男はそのまま席を離れてしまった。