「あ、矢島くん。ほら、飛行機雲」


さわさわと爽やかで涼しい風が吹き抜ける中、私は空に向かって人差し指を向けた。


「…俺、急いでんねんけど」


少し焦るような、でもどこか冷静で透き通った声。


いつも変わらない、私の大好きな声。


「なあに、また塾行くの?」


「当たり前やろ」


当たり前かは分からないけど。


んな毎日塾、塾、塾じゃ頭パンクしちゃうよ。


「たまには息抜きってのもいいと思うよ」


サクサク地道に歩く私の速度に合わしてくれているのかな、矢島くんは、そうかな。ってアッサリ納得した。



数多くの人の中で


上木 江仔
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矢島 苓



二人の物語。