「私は……煙草嫌がってた…?」


私は何も知らないふりして問いかけた。


本当は知ってる。

貴方と同じ煙草を、千夏さんが愛おしむように口にくわえていることを。



「千夏も……同じ煙草…吸ってたよ…?」


彼はまた悲しい笑顔で、赤い箱を私に見せた。


「マルボロの…赤…」



--覚えてる…?--



そう聞くように誠さんは赤い箱の名前を呟いた。


「美味しい…??」


私がそう聞くと、誠さんは箱をトントンと叩いた。

少し頭を出した一本の煙草。



「…吸う?」


そう言って私を見つめる彼の瞳には、期待の色はなかった。



一日過ごして痛いほど思い知ったのだろう。

もはや私が…千夏が本当に何も覚えていないことに。



差し出された一本をそっと口にくわえる。

彼は細く煙を上げる煙草をくわえたまま、私の煙草にライターで火をつけた。



小さくスゥッと吸い込んでみる。


「ゴホッ!ケホッ!ゴホッ」


喉を圧迫するような煙草の苦しさについ咳こんだ。


「クククッ…はい、没収~」


涙目で咳こむ私の口から煙草を奪うと、小さいアルミの灰皿に擦り付けた。




--煙草の吸い方さえ…忘れてしまったのか--



笑いながら煙草の火を消す誠さんの表情は、まるでそう言ってるみたいだった。